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熊本地方裁判所 昭和27年(行)31号 判決 1958年5月06日

原告 鶴野ミツル 外七名

被告 熊本国税局長

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「被告が昭和二十七年十月十五日附を以てなした原告等先代鶴野徳次の昭和二十四年度分所得税に関する審査請求を棄却する旨の決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として「原告等の先代徳次は従来永年個人で木材業を営んでいたが、昭和二十四年七月末日を以て廃業し、右営業全部を訴外九州樽材株式会社に譲渡し、昭和二十五年一月三十日昭和二十四年度の所得税につき、熊本税務署長に同年中の所得額を金九十一万八千九百二十六円として確定申告をなしたところ、同署長は昭和二十五年四月十五日右徳次の同二十四年中の所得額を二百十三万四千円と更正決定したので、同人は昭和二十六年一月五日に被告に対し審査請求をなしたところ、被告は同二十七年十月十五日該請求を棄却する旨の決定をなした。

しかしながら前記徳次の昭和二十四年度における総所得額は係数を整理した結果当初の申告と異る点はあるが、

事業所得         百二十四万五千百十九円

不動産所得              七万五千円

利子所得               一万六千円

合計           百三十三万六千百十九円

に過ぎない。而して本件に於て争となる事業所得の内容は次のとおりである。

(一)  収入金  千三百七十二万二千六百二十四円

内訳

(イ)  売上高 千三百五十四万九千二百四十四円

(ロ)  雑収入      十七万三千三百八十円

(二)  必要経費   千二百四十七万七千五百五円

内訳

(イ)  期首棚卸高   四百八十二万四千八百円

(ロ)  山林買入費     百六万千四百七十円

(ハ)  山床経費 三百四十六万四千四百二十七円

(ニ)  営業費     三百十二万六千八百八円

(明細は末尾添附別表のとおり)

差引事業所得       百二十四万五千百十九円

仍て徳次の相続人である原告等は右所得額を超える前記熊本税務署長の更正決定を是認した被告の審査決定の取消を求めるため本訴に及んだ」旨陳述し、被告の答弁に対し被告が原告先代徳次の事業所得の収入源として計上している費目の内運賃収入百十四万五千六百九十三円は前記徳次の所得に属しないから之は収入金より除外されるべきであり、又営業費の内原告が計上している自家トラツク運賃百二十七万八千四百円を被告が認めないのは不当であつて、右金額は当然必要経費として右徳次の収入金額より控除せらるべきである。

抑々徳次の事業所得に関する原告と被告の計算に多大の差異が存する所以のものは、主として熊本税務署長が前記のとおり右徳次の所得に属しない運賃収入を同人の収入金として計上した反面、営業費の一部として当然必要経費に含まれるべき自家トラツク運賃を経費に計上しなかつたために外ならない。

即ち、原告等先代徳次は昭和十二年頃から自己の取扱う木材の運送は専ら訴外久保十助に委託し、一方同人は右徳次に専属してその運送の業務に当り、両者は相互依存の形式で営業をなしていた。ところが右久保は昭和二十三年頃他に転業したので、その際同人に雇われていた自動車運転手及び助手等が各自労務を出資した上一致して組合を結成し、同人所有の自動車二台を始め、その運送営業全部を譲受けた。そこで前記徳次は爾来その営業を訴外九州樽材株式会社に譲渡するまでの間引続き訴外久保と全く同様の関係で専ら右運転手等の組合に自己が取扱う木材の運送を委託し、同組合は発足以来木材の運送を業とする一個の営業体として昭和二十五年末解散するに至るまで約二年間独立して運送業を営み、原告等先代徳次及びその営業譲渡を受けた右九州樽材株式会社の取扱う木材の運送に従事していたものである。尤も同組合が訴外久保より譲受けた前記自動車及びその後購入した自動車はすべて形式上右徳次の名義となつていたが、それは当時施行されていた臨時物資需給調整法により自動車は指定生産資材とされていたため、之が配給割当を受け得る適格のある同人の名義を便宜藉りていたものに過ぎない。

しかるに熊本税務署長は右徳次の係争年度分の所得額認定に当り、同人が右運転手組合の運営を経済的に援助助成していたこと、同組合所有自動車の登録が同人名義でなされていたこと等を根拠として、同組合が独自の営業体であることを否認し、その営業は原告の営業の一部門たるに過ぎず、その成員は単なる右徳次の使用人に外ならないものと認定し、同人の収支と右組合の収支とを通算して同人の事業所得を認定しているのであつて、被告が右徳次の得た運賃収入として計上している金百十四万五千六百九十三円は右組合が前記九州樽材株式会社の取扱う木材を運送して得た同組合自体の運賃収入に外ならず、又被告が営業費として認めていない前記自家トラツク運賃百二十七万八千四百円は、右徳次が九州樽材株式会社に営業を譲渡した昭和二十四年七月末日までの間前記運転手組合に木材運送を委託した運賃として同組合に対し現実に支払つたものであるから、右金額を営業費として控除すべきは当然というべきである。他面被告が原告の営業費として計上している自動車の燃料費及び修繕費は同組合が自ら経営していた前記運送業のため支出した経費であつて、徳次自身が斯る経費の支出をしたことはないのでこの点に関する限りでは被告は却つて右経費だけ余分に計上しているわけであると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告等主張事実中原告等先代徳次が曽て原告等主張のような事業を営んでいたが、昭和二十四年七月末日その営業一切を訴外九州樽材株式会社に譲渡したこと、原告等主張のとおり右徳次が昭和二十四年度の所得に関してなした所得税の申告に対し、熊本税務署長より更正処分がなされたこと、これに対し右徳次のなした審査の請求につき、被告が審査請求棄却の決定をなした間の経過事実がすべて原告等主張のとおりであることはこれを争わない。又係争年度における原告等先代徳次の所得中、不動産所得及び利子所得についてはいづれも原告主張額のとおり之を認めるが、事業所得額は争う。

原告等は係争年度における右徳次の事業所得額が百二十四万五千百十九円であると主張するが、被告の調査によれば二百四万三千六十九円となるのであつて、その計算の基礎は次のとおりである。

(一)  収入金   千四百八十六万八千三百十七円

内訳

(イ)  売上高 千三百五十四万九千二百四十四円

(ロ)  運賃収入   百十四万五千六百九十三円

(ハ)  雑収入      十七万三千三百八十円

(二)  必要経費 千二百八十二万五千二百四十八円

内訳

(イ)  期首棚却高   四百八十二万四千八百円

(ロ)  山林買入費    百六万一千四百七十円

(ハ)  山床経費 三百四十六万四千四百二十七円

(ニ)  営業費  三百四十七万四千五百五十一円(明細は末尾添附別表のとおり)

従つて差引事業所得額は前記のとおり二百四万三千六十九円となるので、之に前示争のない不動産所得及び利子所得を合算すれば、右徳次の係争年度分の課税総所得額は二百十三万四千六十九円となるのであるから、端数の六十九円を切捨てた二百十三万四千円を以てその所得額と認定した熊本税務署長の更正決定並びに之を支持した被告の審査決定には何ら同人の所得を過大に認定した違法は存しない。

原告は徳次の事業所得の内被告が計上した運賃収入を争い、右は徳次とは別個独立の事業体である運転手組合の所得であると抗争するのであるが、原告等主張の運転手組合なるものは元来存在しないものであるし、仮りに外形上何らかの形で存在するように見えたとしても、組合設立時の状況及びその運営の実体等よりすれば、何ら独立営業体としての実質を有せず、全く原告等先代徳次の利害に出た仮装のものに過ぎないものである。

以下その理由を列記すれば

(一)  原告主張の組合はもともと徳次に雇傭されていた運転手等がその自由意思と利害計算に基き互に共同して貨物運送業を営むことを約してつくられたものではない。

(二)  原告は組合員たる運転手等は各自労務を出資したのみである旨主張しているが、労務出資をどれだけに評価するか組合規約中にその定めがない。又組合が徳次から取得したと称する自動車に対する各自の持分の割合を定める基準もない。

(三)  運送業務に関する経営方法をみても、業務が運転手等の協議により運営されていたものでもなく又業務を執行する代表者の定めがあつたものでもなく、すべて運転手等は徳次の指揮監督の下にその使用人として運送業に従事していたに過ぎない。

(四)  事業経営に必要な物件費はすべて徳次名義で同人の手許から支出され又新旧車輛もすべて徳次所有名義であつた。

(五)  運転手等が毎月支払いを受ける金額は組合からの手当の支給というようなものではなく徳次個人から支給される給料である。

(六)  運転手の退職に際し持分の払戻がされた事例は全くない。

(七)  組合が一定時期に収支計算を行い損益分配をした事実はない。

(八)  原告は、組合は昭和二十五年末解散する迄、事業を経営していたと主張しているが、そうだとすれば解散に当り清算事務が行われた筈だが、そのような事実は全くないばかりか当時運転手等が使用していた自動車三輛は徳次の一存で、同人の組合に対する貸付金の代物弁済として処理されている。

(九)  原告主張の組合が真実存在するならば、所定の免許を受けねばならないのに斯様な事実はない。

(一〇)  原告主張の組合が曽て税務官庁に対し所得の申告をした事実がない。

抑々右徳次は従前から自己の取扱う木材の運送は自家用トラツクによつてなしていたものであつて、ただその所得額を少なくみせる意図の下に右運送部門の経理を分離して恰も同人とは別個独立の運転手組合なるものが運送事業を経営しているかのように帳簿の記載をなしていただけであるから、林業部門と運送部門とを通じて同人の所得計算をなすべきことは当然である。即ち右徳次は係争年度中の昭和二十四年七月末日その林業部門の営業を訴外九州樽材株式会社に譲渡したが、それ迄の間同人は自家用自動車により取扱木材の運送をなしていたのであるから、運転手組合に運賃として百二十七万八千円を支払つたとの原告等の主張が理由のないことは勿論であるし、前記徳次は林業部門の営業を譲渡した後においても、同年中はなおその所有の自動車を使用していたのであつて、前記会社よりその取扱う木材の運送に携つた運賃として百十四万五千六百九十三円の支払を受けている。

従つて原告等が運転手組合の支出と主張する燃料費二十九万八千五百二十三円及び修繕費二十七万八千四百五十七円は前記徳次の右運送部門に関連する営業費として計上されるべきものである。以上の次第で右運転手組合が前記徳次とは別個独立の営業体であることを前提とする原告の事業所得の計算に誤りのあることは勿論であるから之を前記のとおり更正した熊本税務署長の更正決定並に右決定を支持して徳次の審査請求を棄却した被告の処分は何の違法もないので右処分の取消を求める原告等の本訴請求には到底失当たるを免れない」と述べた。

(立証省略)

理由

原告等先代鶴野徳次は曽て個人で木材業を営んでいたが、昭和二十四年七月末日その営業を訴外九州樽材株式会社に譲渡したこと、同人が昭和二十四年度の所得に関し所得額を九十一万八千九百二十六円としてなした確定申告に対し、熊本税務署長より同年度の所得を二百十三万四千円とする更正処分がなされ、これに対し右徳次のなした審査の請求に対し、被告国税局長が昭和二十七年十月十五日付を以て審査請求を棄却する旨の処分をなしたことは当事者間に争いがない。

原告等は係争年度における右徳次の所得は、申告の際の違算を修正しても百三十三万六千百十九円に過ぎないから、前記のように二百十三万四千円に及ぶ所得を認定した熊本税務署長の更正処分を是認した被告の審査決定は違法で取消を免れないと主張するのに対し、被告は同年中の徳次の所得は正確には二百十三万四千六十九円であるから、その端数の六十九円を切捨てた金額を以て同人の所得を認定した熊本税務署長の更正決定並びに之を支持した被告の審査決定には、何ら所得を過大に認定した違法の疑はないと抗争するのであるが、同年度の右徳次の所得中不動産所得及び利子所得の額については当事者間に争いがなく、結局原被告の主張する所得額に右のような差異の生ずる所以は、事業所得の算定に当り運賃収入を徳次の収入金として計上すべきか否かに関する相互の主張の喰違いと、営業費として被告の是認する金額より燃料費二十九万八千五百二十三円、修繕費二十七万八千四百五十七円を除外し、被告の認めた項目以外にトラツク運賃として更に百二十七万八千四百円の支出を認めるべきか否か及び給料、消耗費、減価償却費に関する相互の主張額の相違に存するのである。

そこで先づ本件に於て最も主要な争点である被告主張の運賃収入を徳次の事業所得として認むべきであるか否かにつき以下考えてみる。

(一)  証人二宮利明、同後藤義満、同手島厚の各証言によれば、その実質の如何は暫く措き、原告等先代徳次の取扱う木材運送に従事していた運転手及び助手等が二宮利明を組合長とする組合名義の団体を組織していたことは之を認めることができる。そこで右組合が前記徳次の事業から独立した一個の営業体としての実質を有していたかどうかにつき按ずるに、証人川尻非空、同西村重夫の各証言と右二宮、後藤両証人の証言の各一部を総合すれば、原告等主張の運転手組合なるものは、その発足の当初から何等の運営資金をも有しなかつたもので、しかも原告等が各組合員において出資したと称する労務の評価すらなされず、さりとて損益分配の割合も定めることなく、各組合員は利益の有無に拘らず予め定められた点数制に従い、毎月組合長が原告等先代徳次より受領した金員を給料として支給されていたのみで、組合債務を分担した事実もないこと、同組合には事業年度の定めもなく、従つて収支決算が行われなかつたのは勿論、組合名義で運送営業の免許を受け、或いは租税を納入した事実のないこと及び運転手、助手等の新規採用に当つては一々前記徳次の指図によつていたことが認められる。

(二)  次に成立に争いのない乙第五号証と前掲二宮証人の証言によつて真正に成立したものと認め得る甲第二、三号証を検討してみるとこれら組合規約及び運送契約書中には部分的には右運転手組合が原告等先代徳次より独立した事業体であるかのような表現を用いた個所がないではないが、その内容を仔細に点検すれば組合員相互間の出資に関する規定はもとより、損益分配の割合等独立営業体としての組合にとつて欠くべからざる事項は全くその定めがないのみか、右組合規約(甲第三号証)第二条(組合員は事業主又はこれを代表する者の事業上の命には絶対に応ずるものとし云々)運搬契約(甲第二号証)第十一条(組合は鶴野徳次の承諾なくして他人の運搬物を引受くることを得ず云々)自家用トラツク運営契約(乙第五号証)第二条(車輛は勿論名実共に徳次の所有なるにより云々組合の仕事は一切徳次の指示に従うべきものとする)など組合設立後の運営に関する条項を綜合してみると、右徳次の組合に対する関係は、単にその援助々成の程度に止まるものではなく、雇主としての立場において主導権を保持しているのであつて、同組合は右徳次が自己の事業運営のため労資の協調を名目として運転手等従事員をして組織せしめたいわば従業員組合的な性格を有するものに過ぎないことが窺われる。

(三)  以上の次第で、原告等主張の運転手組合は組合なる名称を用いているものゝ、運転手等の利害計算に基き互に共同して運送事業を営むことを約して組織された民法上の組合ではなく、又前記徳次を出資者とする商法上の匿名組合とも認められず、前叙のとおりたかだか従業員組合的な存在に過ぎなかつたものという外はない。前掲証人二宮利明、同後藤義満、同手島厚の各証言中右認定に反する部分は以上の諸証拠と対比してた易く信用し難い。

(四)  尤も成立に争いのない甲第一号証の一、二によれば、運転手組合の組合長であつた岩本こと二宮利明(利行とあるのは、利明の誤記と認める)代人鶴野徳次として取引高税が納入されたことが認められるのが、証人西村重夫、同上野平治の各証言によれば、結局同号証は原告等先代徳次が之に記載してあるような税金を納入した事実を示す以外には何の意味も有しないもので、しかも右納税額は右徳次の係争年度分の必要経費として控除してあることが認められるから、右甲第一、二号証の存在は少しも前記認定の妨げとなるものではない。

(五)  原告等は運転手組合が独立営業体であつたことの一資料として、同組合が訴外久保十助より譲受けた二台のトラツクは統制法規により指定生産資材とされていた関係上便宜原告等先代徳次の所有名義となし、その後組合において購入したトラツクも同様の理由から右徳次の名義を藉りていたが、実質上の所有者は同組合であつたと主張し、前示二宮、後藤両証人は之に副う供述をしているけれども、右は叙上認定のような組合の実質に徴して俄かに信用し難く、成立に争いのない乙第四号証の一、二、同第五号証によれば原告等主張のトラツクは名実共に右徳次の所有であつて、単に組合に貸与した形式をとつていたものに過ぎないことが認められるから右主張は理由がない。

以上説明したとおり原告等が運転手組合の事業として主張する木材運送は、結局原告等先代徳次自身の事業に外ならないものというべきであつて、成立に争いのない乙第一号証によれば、右徳次は訴外九州樽材株式会社に木材関係の営業を譲渡した後においてもなお運送部門の営業を継続し、右営業譲渡後の昭和二十四年八月から十二月までの間における同人の運賃収入は、被告主張のとおり百十四万五千六百九十三円に達することが認められる。

従つて右運賃収入は当然徳次個人の所得に帰属すべきであるから被告が之を同人の事業所得に計上したことは当然であつて、右金額を徳次の事業所得より除外すべきであるとの原告の主張は理由がない。

そこで以下徳次の事業所得より控除さるべき営業費の内当事者間に於て争いとなる分につき考えてみる。

(一)  先ず原告が運転手組合に支払つたと称する運賃百二十七万八千四百円についてであるが、右組合が独立の事業主体でないことは既に説明したとおりであるから、原告がかかる組合に現実に運賃の支払を為すいわれがないので右金額を必要費として原告の事業収入より当然控除すべきであるとの原告の主張は採用できない。

(二)  次に給料と消耗費並減価償却費につき調べてみるに、この三費目については原告の主張する以上の数字を被告は計上している。尤も前記運転手組合を運送部門の事業主体として認めない被告の立場からすれば運転手等に支給する給料や同事業のための消耗費、減価消却費など原告の主張額を上廻ることは当然であつて、そのこことが直ちに原告の利益とは云えないが、然し原告に於て運送部門の収入を徳次個人の所得と認められた場合に於ける同事業のためのこれらの経費を具体的に主張して被告の認定額を争つていない本件に於ては、原告の主張額を上廻る被告の認定額を以て正当な経費と推認せざるを得ない。

(三)  最後に燃料費と修繕費についてであるが、原告が必要経費として之を計上していないことはこれ又運送事業を徳次個人の事業でないと主張する原告の立場からすれば当然のことであつて、この二費目につき被告が相当額の経費をみているからといつて、そのことが直ちに原告の主張しない経費を被告が認めたという意味で原告の利益になると断言し得ないことは前項につき述べたところと同様である。然しながらこの点についても原告が運送事業より生ずる所得を徳次個人の所得と認められた場合の燃料費、修繕費の額を具体的に示して被告の主張額を争つていない本件に於ては、被告の挙げている同費目の数字を一応正確なものと認めざるを得ない。以上説明したところにより明らかなとおり前記運賃収入が徳次の所得に属すべきものである以上之と被告主張額による右営業費及び当事者間に争いのない他の収支項目と通算すれば、本件係争年度における右徳次の所得は被告主張のとおり二百十三万四千六十九円となり、熊本税務署長の認定した所得額二百十三万四千円は端数の六十九円を切捨てたものであることが明らかであるから、同税務署長のなした更正決定及び之を支持した被告の審査決定には何ら原告等先代徳次の所得を過大に認定した違法は存しないものというべきである。

よつて原告等が徳次の相続人として被告の為した右審査決定の取消を求める本訴請求はこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浦野憲雄 今富滋 森永竜彦)

(別紙目録省略)

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